日経クロストレンド特集『クッキー規制、どう対応する?』第7回/全10回

米大手メディアで始まる脱広告プラットフォーム、GAFA対抗なるか【日経クロストレンド:市嶋洋平 2021年2月12日】

米大手新聞のニューヨーク・タイムズは2020年、サード・パーティー・クッキーによる広告の廃止に向けた取り組みを本格化させた。電子版の有料購読者が急増する中、米グーグルなどの主要Webブラウザーにおけるサポート終了、クッキーにも規制をかけるパーソナルデータ関連の新たな法律に対応。収益向上や将来のサービスのためにデータ分析力の底上げに継続的に取り組んでいる。

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〔※米ニューヨークにあるニューヨーク・タイムズの本社(出所/Shutterstock)〕

「よりよい広告のために、我々は自分自身のデータプログラムを構築する」

 米ニューヨーク・タイムズ(NYタイムズ)は2020年12月、サード・パーティー・クッキーの廃止に向けた進捗状況を公表した。NYタイムズがサード・パーティー・クッキーを廃止するこの方針は、20年5月に米メディアのAxios Mediaが報じ明らかになった。

 背景にあるのは、米グーグルの「Chrome」や米アップルの「Safari」などの主要ブラウザーにおけるサード・パーティー・クッキーのサポート終了や他のテクノロジーへの移行方針。クッキーへの規制も強化する個人情報保護規制のGDPR(欧州一般データ保護規則)や米カリフォルニア州のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などに対応する意味合いもある。

 NYタイムズは20年の1年間で電子版の有料購読者が166万人増加し、20年末時点で500万人を超えている。電子版読者が順調に増加しており、自社のファースト・パーティー・クッキーを利用した顧客の把握や広告出稿で、十分な収益を確保できると判断したとみられる。20年9月には、米雑誌のフォーブスからNYタイムズの広告部門トップに就いたメレディス・コピット・レビアン最高執行責任者(COO)が最高経営責任者(CEO)に就任。完全デジタル化にアクセルを踏み込んでいる。

ブラウザーや設定に依存せず施策可能

 Axiosが報じたところによると、NYタイムズはファースト・パーティー・クッキーを活用して、顧客や利用者を45のセグメントに分けて、広告ターケティングを行うとしている。年齢や世代、収入や投資可能額、職業や役職、性別や教育、婚姻状況、興味など6つのカテゴリーの要素を分析することで分類していくという。

 20年6月、自社のデータを活用して広告を直接売り込む取り組みを本格化させた。NYタイムズのデジタル広告エンジニアリング シニアディレクターのプラネイ・プラハット氏は進捗を公表した同年12月の文書の中で「サード・パーティーのデータやクッキーに頼らず、サイトとアプリの読者にだけフォーカスする」と説明している。外部の広告プラットフォームへの依存から脱却し、自社でビッグデータを蓄積してコントロールする。まさにビッグデータを事業基盤とする米テクノロジー大手の「GAFA」に対抗するかのようなアプローチだ。

 NYタイムズは一連の取り組みで「サード・パーティー・クッキーと同等のターゲティング効果があることが確認できた」(プラハット氏)としている。さらに、ファースト・パーティー・クッキーを使うため、どのようなブラウザーやプラットフォーム、クッキーの設定であっても活用可能なことから、「さらなる拡張をもたらす」(同)と期待する。

サード・パーティー廃止に向け分析力強化

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 NYタイムズがサード・パーティー・クッキーの廃止に向けて取り組むのが、ビッグデータ解析の能力引き上げだ。サード・パーティー・クッキーを活用すれば、そのクッキーを持つ利用者がどのような傾向を持つのか、アドネットワークから情報を得ることができる。一方で、ファースト・パーティー・クッキーの場合は、自社でその利用者の振る舞いのデータを蓄積し、データサイエンティストが分析する。

 NYタイムズはここ数年間、分析システムへの投資を継続しており、ウェブサイトやモバイルアプリを横断した大量の行動データを取得している。ここにグーグルのクラウドサービスを活用している。「Google Cloud Dataflow」と呼ぶサービスを活用し、イベントストリームのデータを、クラウドデータベースである「BigQuery」に格納している。すべてのデータはバッチ処理され、データサイエンティストが広告プログラムのために生成した複数の機械学習のモデルに入れて分析を行う。必要に応じて処理能力を引き上げられるクラウドサービスで実行するので、100ミリ秒以下の低遅延で利用者のブラウザーに広告のデータをプッシュできるという。

買収した商品レビューサイトを配下に

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〔※WirecutterのWebサイト。20年に別ドメインから「nytimes.com」に移管した〕

 サービスの再編にも取り組む。16年に買収した商品レビューサイト「Wirecutter」との統合だ。買収後に別ドメインで運用していたが、サード・パーティー・クッキーの廃止に向けた動きと並行して、20年夏に「nytimes.com」のサブドメインに移行した。同じドメイン内であれば、ファースト・パーティー・クッキーでNYタイムズの記事とWirecutterの商品の閲覧履歴を関連付けて分析しやすい。

 例えば、NYタイムズの読者にWirecutterの商品をターゲティング広告やページのパーソナライズなどで売り込んだり、NYタイムズの読者が興味のある商品という特性を取り込んだりして、新たな分析の切り口とすることも可能だろう。

 多くの企業が1年以内に実施されるグーグルのChromeにおけるサード・パーティー・クッキーの廃止を座して待つことになるだろう。一方でNYタイムズから学べるのは、この逆境をチャンスに変えるという考え方だ。あなたの会社はどちらだろうか。