日経クロストレンド特集『クッキー規制、どう対応する?』第5回/全10回

ディノスが脱クッキーでデータ戦略推進 カタログとアプリを融合【日経クロストレンド:中村勇介 2021年2月10日】

脱クッキーに向けて大手プラットフォーマーが活動を本格化させる中、広告主が取るべき対策はあるのだろうか。1つ確実に言えるのは、既存顧客との関係性の強化につながるデータがより重要になるということだろう。カタログ通販大手のディノス・セシール(東京・中野)は脱クッキー時代を見据え、スマートフォン向けアプリを使って、紙のカタログの閲覧傾向をデータ化しようという試みを始めた。

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 「当社はリターゲティング広告への出稿比率が低いため、クッキー廃止による事業上の影響は軽微になりそうだが、影響がないわけではない。自分たちの顧客リストを構築し、関係性を温められるかどうかがよりビジネスの本質になる」

 サード・パーティー・クッキー廃止による影響を問うと、ディノス・セシールCECO(最高EC責任者)の石川森生氏はこう答えた。ディノス・セシールは定期配布のカタログ通販という事業モデル上、もともと既存顧客のリピート購入が事業の生命線を握る。そのため、すべての広告で新規顧客のCPA(顧客獲得単価)を最重要成果指標に据えている。このとき「リターゲティング広告はむしろ邪魔な存在になる」(石川氏)。

 第3回で解説した通り、リターゲティング広告はサイト訪問履歴を基に広告で再アプローチする手法だ(関連記事「リタゲ広告に壊滅危機 広告会社が生き残りかける3つの方向性」)。ディノス・セシールのように既存客が中心の事業の場合、既存顧客ばかりを広告で追い回すことになりかねない。本来は必要がなかった顧客にまでリターゲティング広告が配信されてしまい、広告の無駄打ちにつながる可能性がある。これが、邪魔な存在という表現の意味するところだ。

 CRM(顧客関係管理)の一環として、外部の広告枠を活用して既存客にアプローチするという考え方もある。「Amazon.co.jp」や「楽天市場」のように、膨大な商品を扱うモールなどでは有効な手段だろう。ただ、ディノス・セシールの場合、直接顧客に届けるカタログという強みがある。デジタルとの接点を複合的に活用することで、広告に頼らないCRMを目指している。

 「とはいえ、リターゲティング広告が優秀な広告メニューであることには間違いない。KPI(重要業績評価指標)に収まる範囲では活用していた。それが今まで通りに使えなくなる可能性が高い。また、Web広告は全般的にCPAが高騰しており、決して効率が良い手段とも言い切れなくなっている。だからこそ、既存顧客との関係性を強固なものとするため、事業主体者が取得するデータ、すなわちファースト・パーティー・データの重要性が鮮明になる」と石川氏は語る。その言葉通り、ディノス・セシールは2020年10月からスマホ向けアプリを活用し、これまで取りづらかったデータを取得する新たな取り組みを始めた。

カタログ閲覧者にパーソナライズした情報提供

 同社は20年10月にスマホ向けアプリを刷新し、「カタログスキャン」機能を追加した。紙のカタログを開いてスマホのカメラをかざすと、画面上に商品在庫数、4段階の会員ランクに応じた実売価格、クーポン利用時の割引価格などが表示される機能だ。当たり前だが、紙のカタログでは商品や顧客ごとに情報を掲載し分けることは不可能。各商品ページにQRコードを掲載する方法も考えられたが、全ページに掲載すると見栄えが悪くなる。

 この課題を回避するために用いたのが、画像認識だ。スマホをカタログにかざすと、掲載されている商品写真を画像認識技術で抽出し、アプリの画面上に対象商品の一覧を表示する。「商品に関心を持ったときに、ECサイトを訪れて品番で検索したり、コールセンターに電話したりするのはかなり面倒。このワンステップを省力化できると、UX(顧客体験)が向上する」と石川氏は言う。そこで先端デジタル技術を組み合わせることで、既存のカタログに手を加えることなくパーソナライズした情報提供を可能にしたのだ。

 カタログスキャンはスマホを片手にカタログを見ることで、従来はディノス・セシールのECサイトにアクセスしないと確認できなかった情報を、手元ですぐさま確認できる利便性を顧客に提供する。(続く)